大人の生徒さん、Mさん。同じ市内ながら、車で30分かけて、仕事がお休みの日に通ってくださっています。
夜勤もあるハードな介護のお仕事をされていて、貴重な休日を使ってレッスンにいらしています。
お忙しいので、レッスンは月に1~2度。
練習できるのも休みの日だけ。
小学校低学年のころに、バイエルが終わったぐらい。
なかなか厳しい条件ですが、驚くほどに着実に上達されています。
ブルグミュラーの1番から始めて、4番までやって、
「エリーゼのために」を全部弾いて、
それからまたブルグミュラーに戻っていますが、
この前は譜読みも完璧な状態でもってこられて、1発でマル。
レッスンでは声部によってタッチや音色を変えることなんかできちゃったんですよ。すごい!!!
そんなMさんが、「自己満足ですけど、弾けるとうれしいですね」とあるときおっしゃいました。
思わず、「自己満足でいいんですよ! 自己満足できる力が、一番大事なんですよ!!」と、私は叫んでしまいました。
どれほどうまくなっても、満足できずに苦しんでいる人は、たくさんいます。
それじゃ、音楽じゃなくて、「音が苦」。
美意識を高く、理想を高く持ち、追求していくことは素晴らしいことです。
でも、完璧な演奏ができることは、永久にないでしょう。
完璧になれると思うほうが、おこがましいのではないでしょうか。
まず自分に与えられたもの、自分が持っているものを、「いいじゃない」と素直に認めてあげる。自己満足する。
そのうえで、もっと美しく、もっと深く、もっと素敵な表現を目指していけば、楽しく音楽できるんじゃないかな。
・・・と、私は思わず熱弁をふるってしまいました。
すると、Mさんは、「確かに自己満足って大事ですよね。お世話している方に、歯磨きをしなくなったおじいちゃん、いるんですよね。俺はもう、いいんだから、って。」
といいました。
歯磨きをわざわざしなくても、確かに、人生の最期になれば、別にいいのかもしれません。
逆に、「ここがよく磨けていない」って、いつもため息をついているのは、磨かないのよりもいいけれど、なんか、気の毒な感じ。
ほどよく自己満足できるバランス感覚って、人間らしく生きていくのに、とっても大切な気がします。
これは、Mさんの「エリーゼのために」をちょっとだけ動画で撮ったものです。
ふだんご自宅では電子ピアノで練習しているMさん。
メールで動画アドレスを送ったら、
「先生のお宅のピアノの音が素晴らしすぎて、感動です!!」
とのご感想。
バランスのいい自己満足って、こうした言葉に見事に出るものだなと思いました。
電子ピアノだって、ピアノはピアノ。練習してきてグランドピアノに向かえば、これだけの音色が自分にも出せる。
そんな感動を共有できて、私も幸せです。